UCM解析

その1:UCM解析って何だろう?


昼食後、いつものコーヒータイム。書類を見ていたS銀研究員がY田研究員に話しかける。

S銀研究員:Y田さん、このUCM Analysisって何ですか?

Y田研究員:UCMは"UnControlled Manifold "の頭文字。UCM Analysisを無理に日本語にすれば「非制御多様体解析」って感じかな。

S:なにやら難しい名前ですね?

Y:名前だけでなく、中身も難しいよ(^^;) 。私の研究留学先のボスでアメリカのペンシルバニア州立大学(Penn State)にいるマーク・L・ラタッシュ(Mark L Latash)という先生がよく用いている解析方法なんだけど、日本ではほとんど使われていなんじゃないかな。

S:うちで扱うってことはリハビリ関連ですよね?何を解析する方法なんですか?

Y:簡単にいって運動の協調性みたいなものを数値で表すための方法なんだ。

S:なるほど。聞くと単純ですが、実際の解析は難しいんでしょうね。

Y:ちゃんと理解しようとすると、ある程度ベクトル空間なんかの知識は避けて通れないかな。でもこの解析方法でいろんなことがわかるんだよ。

S:例えばどんなことがわかるんですか?

Y:そうだね。例えば、立位姿勢を保つには数多くの筋肉が協調して働く必要があるよね。

S:ありますね。

Y:ラタッシュ先生の研究室では、姿勢制御にUCM解析を使って、立位バランスをとるためのそれぞれの筋群の協調度合いを調べているよ。例えば、腕を伸ばして手で重りを持って立っている人がいるとする。そこで急に重りを離すときは、倒れないように無意識に筋肉の力の入れぐあいを瞬間的に変える。筋電図を使えば、重りを離す前後でそれぞれの筋肉の活動がどう変わるかをみることができる。ところが、それだけではそれぞれの筋同士がどう協調しているのかはわからない。そこでUCMの登場になるわけ。筋電図の解析にUCM解析を使うと、重りを離す前後で筋肉の「協調性」がどう変わるかというのを、数値的に見ることができる。筋電図はミリ秒(千分の一秒)単位のデータをとるから、協調性の変化もミリ秒単位で追えるんですよ。

S:そんなことがわかるんですか? 4つのボタンの上に4本の指をかざしている写真


Y:そうそう。ラタッシュ研究室では、UCMで指の協調性も調べているし、他にもこの解析方法を用いることで、今まで客観的に評価することが難しかった運動制御の仕組みや運動学習について、新たにわかることがたくさんあると思うんだ。

S:なるほど。それはおもしろそうですね。

Y:でしょう?。UCM解析の日本語の解説はたぶん皆無だと思うし、自分でも英語と数学に苦労して理解したけど、そのままだと細かいこととかだとだんだん忘れちゃいそうだから、S銀さんに説明しながらちょっと整理しておこうかな。

S:ぜひぜひ。そしたらそれ、研究室のホームページに載せちゃいましょうよ。

Y:ああ、それ良いね。そしたら、UCMの話に入る前に、まず運動の「冗長性」の話をさせて。

S:ジョウチョウセイ...ですか。

Y:そう、この冗長性こそは、生物の運動制御のキモの部分なのですぞ。というわけで、次回の冗長性の話に請うご期待(キャラが変わった?)。


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