UCM解析

その4:協調性をグラフで見てみよう!(その1:時系列グラフ)


S銀研究員:結局、更新がずいぶんと遅くなってしまいました・・・月日が経つのは早いものですね。

Y田研究員:まあ、それは外の世界のこと(^^;)。こっちはまだコーヒータイムの開始後20分経過くらいでしょ。さて、今回は「UCM解析の話に突入」って予告してたけど、その前にもう一個だけ。

S:え〜、まだ引っ張るんですか? テレビの特番じゃないんですから。

Y:引っ張るつもりはないけど、ややこしい数学の話に入る前に、さっき話した内容をグラフでみておこうかと思って。

S:協調性をグラフで表すってことですか。そもそもそんなのってグラフで表せるものなんですか?

Y:あんまり複雑なのは無理だけど、単純な例ならわかりやすいと思うよ。前回、オーケストラの例を挙げたけど、まずは単純な例にするためにプレイヤーが二人だけの場合を考えよう。この二人の演奏の協調性の話。二人のメンバーを、メンバー1、メンバー2と呼ぶことにしよう。二人がそれぞれ太鼓をたたいて、音を出す。それぞれの音量を単純に足し合わせたものが全体の音量になるとする。実際の人間の感じ方は単純な足し算とはちょっと違うけど、そこは目をつぶってね。
 仮に二人一緒に一定のテンポでダン、ダン、ダン、と叩いて、合計の音量が常に決められた値になるようにするためには、2つの戦略が考えられるんだ。

S:戦略ですか?ストラテジーっていうやつですね。そういえば昔、そういう名前の競走馬がいましたよ。

Y:馬の話は置いといて...

S:戦略っていっても、合計の音量を一定にしようとしたら、二人ともなるべく一定の音量で叩くっていうのが普通ですよね。

Y:そうそう。それが1つめの戦略ね。合計の音量が20の場合、例えばメンバー1が音量12、メンバー2が音量8を目標にして、毎回それになるべく近づくように叩くというもの。うまいこと目標どおり叩けた場合、つまり、各人の音量が各人の目標値に近くて、しかもその変動が少ない場合、全体の音量も目標に近くて変動が少ない、ということになる。
 ところが、理屈のうえでは、この戦略以外でも、合計の音量を目標値に近づけて、しかもその変動も小さくする方法はある。

S:そうか、それって結局前回の話の繰り返しですよね。そいうことなら、言葉で説明するより、こんなグラフを作ればいいってことかな。

(S銀研究員、やおら机の上のノートパソコンを開いて、エクセルとイラストレータを目にも止まらぬ早業で操作。その間、コーヒーをすするY田研究員。そして1分後。)

S:えーと、グラフに描いてみるとこんな感じですか? ↓↓
縦軸に音量、横軸に試行回数をとったグラフの下に、非協調型と協調型に分けて、メンバー毎の音量-試行回数グラフがある
Y:そいうこと。左側は二人のメンバーがそれぞれ音量12と音量8を目標にして、それぞれ精度良く叩いている例ね。それを足し合わせれば、当然一番上のグラフのように音量20くらいで変動の少ない結果が得られる。問題は、右の例だよね。左の場合と比べると、二人とも変動がすごく大きい。それにも関わらず、合計の音量の変動は小さい。これ、確かに二人の音量を合計すると一番上のグラフになるんだよね?

S:値がそうなるようにエクセルで作りましたから、確かですよ。

Y:じゃ、もうカラクリを説明するまでもないね?

S:この場合、合計の音量の値をまず決めて、次にメンバーの音量1を決めて、最後にメンバー2の音量は合計の音量からメンバー1の音量を引いて計算してますから。

Y:つまり、メンバー1の音量が大いときはメンバー2の音量が小さく、逆にメンバー1の音量が小さいときはメンバー2の音量は大きくなっているわけだよね。お互いの変動が、全体の変動を打ち消すような動きをしている。左の例の戦略の場合には、メンバー1と2が全然面識もない関係で、別々にスタジオに入って演奏したのを録音して、あとで同時に再生しても合計の音量は似たようなパタンになるはず。各人の技量さえ確かならね。しかし、右の例のようなことをやろうとすると、一緒に相当練習して、お互いの叩く姿をよく見て、いろんな癖とかを知り尽くして、よっほど息を合わせないとできない芸当だよね。つまり、「協調性」は左の戦略には必要なく、右の戦略には必須ということになる。言い方をかえれば、右の例のようになっているとき、「メンバー間には協調性がある」、「メンバー間の協調性が高い」、ということになる。

S:前回の鍛冶屋の例で、叩く位置が毎回同じだから各関節の動きも毎回同じだろう、と予想したのは、左の例みたいな戦略を予想したということになるわけですね。ところが実際には関節の動きは毎回ばらばらだった。それでもトンカチの位置が変わらないのは、右の例のような仕組みだったというわけですね。

Y:そのとおり。さて、もう一回グラフを見てみて。左の場合には、個々のメンバーのばらつきと結果のばらつきがだいたい同じ程度になっている。「結果」というのは、この場合には合計の音量のことね。右の場合には個々のメンバーのばらつきに比べて、結果のばらつきが小さい。こんなふうにグラフを作ってばらつきを見てみると、協調性を視覚的にみることができる。
 ところで、この方法だと、グラフが3つ必要になる。メンバー1のグラフ、メンバー2のグラフ、結果のグラフ。でも、ちょっと工夫をすると、1枚のグラフにまとめることができて、しかも協調性がより見やすくなる方法があるんだけど、見当つく?

S:だいたい見当つくんですが、長くなりそうなので次回にしません?

Y:いいよ。「UCM解析の話に突入」までに、もうちょっとじらす作戦ね

S:じらすって、...何のために?


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