UCM解析

その7:結果に影響するバラツキと影響しないバラツキ

作成日 2007.10.24

S銀研究員:協調性を定量化するために、「方向別のバラツキの大きさ」を求めようとしているところでした。前回はバラツキの計算方法の復習でほぼ終わってしまいましたが。

Y田研究員:単なる練習ってわけじゃないよ。前回は、(1)「2次元のグラフ上で見たデータ(二人それぞれの音量)のバラツキ」と(2)「結果(合計音量)のバラツキ」の計算式を作ってみたわけ。今回は、(1)のバラツキを、「結果に影響するバラツキ」と「結果に影響しないバラツキ」に分ける作業に入ります。

S:「結果に影響するバラツキ」と「結果に影響しないバラツキ」って、どういうことですか?

Y:それを説明するために、前のグラフにちょっと書き加えてみようか。前の例では、合計の音量が20になるところに赤線を引いてもらったよね(その5を参照)。そのグラフに、音量が24の時の線、28の時の線、32の時の線、それから16,12,8あたりの線も書き加えてみてくれる?

S:えーと、合計音量が20のときは横軸上の20のところと縦軸上の20のところを結んだわけだから、合計24の時には、横24と縦24のところをつなげば良いわけですよね。(同様に、8〜32の場合の点線を書き加えて...)できましたよ。

メンバー2人の音量の関係のグラフ。合計音量20を示す赤い直線のほか、8から32の場合の点線が書き加えられている 登山のイメージイラスト
Y:そうそう。これってね、ちょうど地図の等高線みたいになってるわけですよ。登山道が等高線に平行に走っているときって、高さはどうなる?

S:高さは変わりませんよね。

Y:そのとおり。逆に、等高線を垂直に突っ切るように動いている時って、斜面の一番急なところを登るか降りるかしているわけ。

S:スキーの直滑降のときは、等高線を垂直に突っ切っていることになるわけですね。

Y:そういうこと。等高線に垂直な道は、高さの変動が最大の道。等高線に平行な道は、高さの変動が無い道。

S:垂直でも平行でもなく、斜めの場合は?

Y:スキーで言えば斜滑降。高さの変動はあるけど、直滑降ほどじゃない。最近、地元の箕面の里山をよく登るんだけどね、行程が長くても、等高線に平行な道なら大変じゃない。等高線に垂直な道だと、坂がきついので大変で、夏だと汗びっしょり。

S:なんだか話がずれてきてません?

Y:ずれているようで、ずれてない!
 今回はズレというか、バラツキの話なんだけど...。今は等高線に例えたけれど、このグラフの線は、二人のメンバーの合計の音量、つまり、この場合の演奏の「結果」を表しているわけだよね。このグラフの赤い斜め線を、勝手に等音量線と名付けよう。登山道が等高線に平行か垂直か斜めかが坂の勾配に重要なのと同じように、二人の音量のバラツキが等音量線に平行か垂直か斜めかは、結果の音量変化に重要なんです。

S:なんか、少しわかってきましたよ。メンバーの音量のバラツキが、この赤線に沿っているとき、つまり平行な時は結果の合計音量には変化は無い。赤線を突っ切る方向、垂直な方向の場合には、合計音量が変化する。
 あれ、最初に言ってた「結果に影響するバラツキ」と「結果に影響しないバラツキ」って、もしかしてこれのことですか?

Y:ご明察。前回も使った「協調性のある例」のグラフを見てみて。

協調性のあるグラフ。合計音量20を示す赤い直線に沿って、点が幅広く分布している

S:なるほど。この場合には等音量線に沿ってばらついているから、全体の音量の変化は小さいというわけですね。

Y:そういうこと。ただし、今、「小さい」って言ったけど、科学的に考えるときには「何に対して小さい」のかが大事。

S:確かに。ただ大きいとか小さいとかっていうだけなら主観的ですものね。この場合、何に対して小さいのかというと...。

Y:坂がきついと、汗びっしょり。

S:そうか、等音量線に対して垂直にばらつく場合と比べて...小さい!

Y:そんなふうに比較すれば「小さい」って意味がはっきりするよね。試しに、さっきの図の点の位置を90度回転させたグラフを作ってみるよ。

協調性のあるグラフを左90度回転したグラフ


Y:ポイントは、グラフを90度回転させただけだから、メンバー1の音量もバラツキも、メンバー2の音量のばらつきも、前回やった2次元のバラツキも、回転前のグラフと全く同じ、というところ。それにもかかわらず....

S:合計の音量はすごく大きく変化する。...そうそう、何と比べてかというと、回転前のグラフの場合と比べて合計音量の変化が大きい!

Y:さて、2つのグラフから合計音量を計算して、そのバラツキを比較することはできる。だけど、これからやりたいのは、「結果に影響するバラツキの『大きさ』」と「結果に影響しないバラツキの『大きさ』」をきちんと計算して比較するということ。

S:けっ、計算ですか。さっき、「メンバー1の音量もバラツキも、メンバー2の音量のばらつきも、前回やった2次元のバラツキも、回転前のグラフと全く同じ」とか言ってましたよね。

Y:そうです! だから、いままで出てきたのと違う計算が必要になるわけです。

S:計算はまた次回にしましょうか(汗)。今回も結局UMC解析のところまでは行きませんでしたけど。

Y:UCMの話にたどり着くまでの道は、山道のように険しい...ってことかな。


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