UCM解析

その9:バラツキを2つに分けて大きさを比べる

作成日 2009.7.23

S:前回、a点からb点に向かうベクトルD の、ORT方向の成分とUCM方向の成分を得ることができたわけですが、その意味とは何か?でしたね。

Y:そうそう。D = √20、DORT = √2 、DUCM = 3√2、の3つの数値を求めたわけだけれど、それらの数値はどんな意味を持つのか、っていうこと。

S:えーとですね、DはベクトルD の大きさ、DORTはベクトルD をORT方向へ投影したベクトルの大きさ、DUCMはベクトルD をUCM方向へ投影したベクトルの大きさ。それらはD をORT方向、UCM方向の軸に対してそれぞれ投影したものなので、x-y平面ならぬORT-UCM平面における座標?みたいなもんでしょうか??

Y:言ってることは間違ってないけど、それはDORT が何で、DUCM が何かっていうような説明であって、「数値の意味」じゃないよね。いま知りたいのは、「全体のバラツキが√20のとき、DORT が√2で、一方DUCM が 3√2だったっていうことから何がわかるのか」、っていうこと。

S:うーんと・・・あぁ〜、思い出してきましたよ。音量のコントロールに関係がある方向の成分の大きさと、音量のコントロールに関係がない方向の成分の大きさ・・・だったかな?それらを比べるために、こんな数値を求めたんでしたよね。

Y:そのとおりなんだけどぉ、だから√2と3√2という数値から何が言えるか、っていうと?

S:えーと、この場合、音量に関係ある変動が√2で、音量に関係無い方が3√2ということで....

Y:S銀さん、絶対わざとボケてるでしょ? もー、このコったら大阪に来てから変なワザ憶えてからに。
 もおええ、ワシの負けや、ワシが言うたる。音量に影響しない変動の方が影響する変動よりデカイ。どんくらいデカイかっちゅうと「3倍デカイ(DUCM/DORT = 3」とか「2√2デカイ(DUCM - DORT = 2√2)」っちゅうこっちゃワレェ。

S:以後、そのキャラでいきます?

Y:いや、それはキツイ。とにかく、個々の要素を数値化したことで、要素間の比をとったり差をとったりして、定量的にみることができるようになったわけ。これまでは分布の「形」を見ていただけだけど、そこからもう一歩踏み込んで数値で語れるようになったわけです。
 ここまでは、前回の真ん中のグラフのaの状態からbの状態への変化、つまり変動の一回分について、その変動をORT方向の成分とUCM方向の成分に分けて大きさを比べられるようにしたわけだけれど、本当に知りたいのは、セッション「全体」を通じての協調性。「その6:バラツキってどうやって計算するの?」で使った2つのグラフをもう一回、出してみて。

S:了解です。(下のグラフ)

縦軸にメンバー1の音量、横軸にメンバー2の音量をとったグラフが二枚並ぶ。二人の音量の合計が20となる赤い直線が描いてある。20点プロットされ、一方はのタイトルは協調性なしで馬型。もう一方は協調性ありでプロット点が赤い直線に沿って広く分布している。

Y:このグラフで左は協調性がない場合で、右がある場合だけれど、さっき説明したUCMの概念を使って協調性を数値化・定量化したいんだけれど、どんなふうにすればよいか、見当つきます?

S:各プロットのベクトルを、同じようにUCM方向とORT方向の成分に分解して、それらのバラツキ(分散)を求めればいいんですよね。

Y:式で書くと?

S:式ですか!?えーと・・・

Y:ヒントは、まず平均を求めて、そこからの距離で表現すること。いくつか方法はあるけど、そのやり方がわりと簡単かな。

S:ヘイキン・・・。ではまず、i番目の点の位置を P (i) = (x(i), y(i)) とおいて、平均ですよね? n個のプロット点の平均を表す位置を Pm とすると・・・

この平均位置 Pm から P (i) へのベクトルを D (i) とおくと・・・
そのUCM方向の成分 DUCM (i) とORT方向の成分 DORT (i) を求めるとすると、それぞれD (i)とUCM方向の単位ベクトル ZUCM 、ORT方向の単位ベクトル ZORT との内積を求めればいいわけだから・・・ と書けて、と・・・

Y:うん。そこまでは間違ってないよ。

S: そうなれば、後は普通の分散の求め方と同じ計算ですね。UCM方向の分散とORT方向の分散をVUCM 、VORT とすると、それぞれこんなふうに求まりますでしょうか。

Y:そうだね。これで方向別のバラツキの大きさがわかる。あと、全体の分散を求める式は以前やったよね。

これらの式を使って計算すると、セッション全体を通じての2人の奏者の音量状態の分散(Vtot )と、そのうちの全体の音量に影響しない成分(VUCM)と影響する成分(VORT)を数値として求めることができる。そうなれば、それらの数値を比べることで、協調性を数値化できる。比べ方はいろいろ考えられるけれど、次の式のようなデルタV(ΔV)が良く使われます。

S:あ〜。なんかラタッシュ先生の論文とかで見たことあるような気がします。

Y:ここまで来るとそろそろ終盤に近いかな。で、続きはまた次回。


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