UCM解析

その10:協調性の指標ΔV(でるた う゛ぃー)の計算結果をみる

作成日 2010.2.19 
 (2019.4.10 表の音量表記の修正)

Y:さて、協調性を表すΔV(デルタV)の式がわかったので、今まで見てきた「協調性なし」「協調性あり」のケースのデータ(数値)から、実際にΔVの「値」を計算してみよう。

S:了解です。

(グラフを作ったときのエクセルデータから、ΔVの計算表を作るS銀研究員)

S:さっそく計算をしてみました。音量値とともに、平均点からの位置ベクトルDとそのUCM成分、ORT成分を並べて一覧表にしてみました。

協調性がないケース
試行回数 メンバー #1の音量 メンバー #2の音量 平均音量からの変動 変動のORT成分 変動のUCM成分
i m1 m2 D DORT DUCM
1 11.0 9.0 1.4 0.0 -1.4
2 11.6 6.4 1.7 -1.4 0.9
3 12.3 6.7 1.3 -0.7 1.1
4 10.8 10.2 2.5 0.7 -2.5
5 11.7 8.3 0.4 0.0 -0.4
6 12.2 5.8 2.2 -1.4 1.7
7 13.7 6.0 2.6 -0.2 2.6
8 12.8 8.2 0.8 0.7 0.5
9 10.3 9.7 2.4 0.0 -2.4
10 11.3 8.7 1.0 0.0 -1.0
11 11.4 9.6 1.7 0.7 -1.6
12 11.1 8.9 1.3 0.0 -1.3
13 13.9 7.1 2.1 0.7 2.0
14 12.5 9.5 1.6 1.4 -0.8
15 12.5 7.5 0.7 0.0 0.7
16 11.5 8.5 0.7 0.0 -0.7
17 13.3 7.7 1.3 0.7 1.1
18 12.1 7.9 0.2 0.0 0.2
19 12.0 7.0 1.0 -0.7 0.7
20 12.5 7.5 0.7 0.0 0.7

m1の平均 m2の平均 Dの二乗平均 DORTの二乗平均 DUCMの二乗平均
m1m m2m VTOT VORT VUCM
12.0 8.0 2.43 0.48 1.95
ΔV = (1.95 - 0.48) / 2.43 = 0.61
協調性があるケース
試行回数 メンバー #1の音量 メンバー #2の音量 平均音量からの変動 変動のORT成分 変動のUCM成分
i m1 m2 D DORT DUCM
1 10.0 10.0 2.8 0.0 -2.8
2 1.0 16.8 14.1 -1.6 -14.0
3 13.0 5.7 2.5 -0.9 2.4
4 19.0 2.0 9.2 0.7 9.2
5 18.0 2.0 8.5 0.0 8.5
6 16.0 1.9 7.3 -1.5 7.2
7 17.0 2.0 7.8 -0.7 7.8
8 10.6 10.5 2.8 0.8 -2.7
9 16.1 4.1 5.7 0.1 5.7
10 17.1 2.6 7.4 -0.1 7.4
11 14.4 6.7 2.8 0.8 2.6
12 15.0 5.5 3.9 0.4 3.9
13 1.0 20.0 16.3 0.7 -16.3
14 9.5 12.5 5.1 1.4 -4.9
15 3.0 17.0 12.7 0.0 -12.7
16 18.5 1.2 9.4 -0.2 9.4
17 13.0 8.1 1.0 0.8 0.6
18 9.0 10.6 4.0 -0.3 -4.0
19 15.0 4.0 5.0 -0.7 4.9
20 3.4 16.6 12.2 0.0 -12.2

m1の平均 m2の平均 Dの二乗平均 DORTの二乗平均 DUCMの二乗平均
m1m m2m VTOT VORT VUCM
12.0 8.0 66.73 0.59 66.14
ΔV = (66.14 - 0.59) / 66.73 = 0.98
(2019.4.10 表中の音量表記の修正: それまで整数部分のみだったが、小数第一位の値を追加)

Y:どうもありがとう。とりあえずΔVはおかしな値にはなってないので、計算はS銀さんを信じるとして、求めてくれたΔVを見てみると、協調性がないケースでは0.61、協調性があるケースでは0.98・・・協調性がないケースも案外高いね。計算間違ってないよね?

S:間違ってないです。
 で、このΔVなんですけど、数値が大きいほうが協調性が高いという理解で間違いないですか?

Y:そういえば、確か前回の最後のところで、ΔVの式の分子が間違ってたでしょ。あれ、直しといてくれた?

S: 最初、ΔV = ( VORT - VUCM ) / Vtotって書いちゃったとこですね。 ΔV = ( VUCM - VORT ) / Vtotに直しておきました。

Y:はい、それならOKです。VUCM もVORT も Vtotも、みんな「分散」だから正の値になるわけで、VUCM の方がVORTより大きければ大きいほど、ΔVも大きな値になる。というわけで、ΔVの値が大きい方が協調性が高い、って解釈になります。

S: 協調性の最大値ってあるんですか? 見た感じなんとなくΔVの最大値が1のように思えるんですけど。

Y:最大値・最小値をおさえておくのは大事だよね。ΔVの計算式、それからその式の中の各項の関係を考えると、最大値・最小値は割と簡単に求められるよ。ちょっと計算してみない?

S:計算すか。えーと、ΔVの式がこうで・・・

Y:この中の3つの項、VUCMとVORTとVtotは好き勝手な値を取れる訳じゃなくて、なんか関係があったよね。どんな関係だったっけ?

S:関係ですか?えーと、複雑な関係でしたよね・・・

Y:どっちかっていうと単純な関係かも。そもそもVtotってどうやって求めたっけ?

S:えーと・・・前にやったやつ(その6)ですね。

Y:そのL(i)ってなんだったっけ?

S:Lはグラフ上のある点から別の点への変動の距離ですね。L(i)は2人のプレーヤーの20回分の音量の平均を表す点から、i番目の音量点までの変動の距離。その変動をDUCMの成分と、それに直交するDORT分けたわけだから、・・・

うまい具合にL(i)の二乗の関係が出ているので、これを上の式に代入すると、・・・  ・・・結局、VtotはVUCMとVORTを足したものなんですね!

Y:そのとおり。VUCMとVORTが、元々の変動を直交する成分に分けたものの分散だから、単純にそれを足すと元の変動の分散、すなわちVtotになるという具合。実際、さっきの表の結果もそうなってるよね。

S:ふむふむ。

Y:この関係がわかると、ΔVの最大値と最小値はすぐに出るんじゃない?

S:ΔVの式を見ると、VORTがゼロのときがΔVは最大、逆にVUCMがゼロのときが最小でしょうか。
 VORTがゼロのとき、

となるので、このときは、VUCMの値はVtotと同じ。そうすると、ΔVの式のVUCMにVtotを代入して、さらに、VORTは0と置いたのかだら、・・・
 同様に、VUCMがゼロのとき、Vtot =  VORTなので、それを代入して・・・
 お〜。ΔVは、-1から1の範囲を取り得るんですね(注:プレイヤーが2人の場合)。1に近いほど協調性があって、-1のときは協調性がないってことですか?

Y:今回の例では、もしΔVが1に近かったら、2人のプレーヤーの間の協調性が高かった、と言ってかまわないでしょう。そして理論的にはΔVは-1まで取り得るわけだけど、でも、今回の例で-1に近づくっていうのはちょっと考えにくい、ってか現実ではあり得ないかな。

S:それはどういうことですか?

Y:つまりね、この例でΔVが-1に近いというのは、2人のプレイヤーが同じ動きをした、ってことになるわけ。本来「一人の人が大きな音を出しすぎるとき、もう一人が音を小さくしてカバーする」ってことを要求されている。「同じ動き」というのはこれとは真逆。相手が大きな音を出しすぎたとき、あえて自分もイヤガラセのように音を大きくしているってことになる。それはそれでかなりの練習が必要なわけで、この課題ではそんなことは普通は起こりそうもない。この例で「協調性がない」っていうのは、練習が不十分で、2人がまだお互いのカバーができてない、っていう状況が相当するんじゃないかと思う。

S:その場合、ΔVが-1にならないとしたら、どいういう値になるんですか?

Y:たまたま協調的に動くこともあって、たまたま反発的に動くこともあって、その中間くらいのこともあって、...となると、全体変動のUCM成分もORT成分も平均的には同じくらいなる。つまり、 VUCM ≒ VORT

S:その場合、ΔV ≒ 0 ですね。

Y:そういうこと。つまり、この例では、協調性が無い場合は0に近くなって、協調性がある場合は1に近くなる、ということになりそう。もちろん、ΔVが負になることもありえるけど、いずれにしても、-1近くになるってことは、理論的な最小値という意味ではあり得るけど、今回の課題例の結果としては考えにくい、と言えると思う。

S:なるほど。そうすると、協調性が無い方のデータで計算したΔVの0.61も、正の数だから協調性が「高い」とうい解釈ではなくて、もう一方のΔV = 0.98に比べて、協調性が「低い」かった、ということになりますね。

Y:そういうことです。ところで、ΔVが-1から1の範囲をとるというのは、一般的な話では無いのです。

S:どういうことですか?

Y:さっき計算したΔVの最大値・最小値、あるいはΔVの計算式そのものも、プレイヤーが2名、つまり変数あるいは自由度が2の場合限定の話なのです! もし、プレイヤーが3人以上だと、またさらに考慮しなければいけないことが出てくるのだ!

S:おおっと! そろそろ締めに入るのかと思ってましたが、その先にまた難しそうな話が・・・というわけで、ここからはまた次回ですね。


その9:バラツキを2つに分けて大きさを比べる 生体工学技術へその11:これまでのまとめと一般化への拡張の準備