S銀研究員: UCM解析のシリーズ、あと1回だけ残ってましたね。
Y田研究員: あ〜あ、黙っていれば誰も気づかなかったのに。
S:いや、気づきますよ。今回は、目標値が変動する場合の話しって言ってましたよね。
Y:そうですね。これまでの例だと、プレイヤー達に「合計音量をある一定値に保つ」という課題のもとで何回か、例題では20回ほど、叩いてもらって、そのときのプレイヤー間の変動の協調性の程度をUCM解析を使って調べる、ということをしてきたんだよね。でも、一般的には目標値がずっと一定のままとは限らなくて、目標値が時間的に変化するようなパターンが良くある。
S:そんな場合もあるんですねぇ。なんて面倒くさい。
Y:確かに扱いは面倒くさくなるけど、そういう例はいくらでもある。私のやった研究の例だと、「4本の指でセンサを押して、4本の合計力の動きをあるパタンに一致させる」みたいなタスクをやってもらうわけ。「あるパタン」というのは、力の時間的な変化パタンのことなんだけど、例えば「一定の割合で力を増やしていって、それからある一定値をキープする」(ランプ課題)とか、「目標値まで一気に増やして、その後一気に減らす」(パルス課題)とか。
S:この「合計の力」が、これまでの例の「合計の音量」に対応するわけですね。それが一定でなくて、時間的に変化すると。そうすると、「4本のそれぞれの指の力」が「2人のプレイヤーの音量」に対応するわけですかね。
Y:そのとおり。ただ、指の数が多いと扱いが大変なので、この先は2本の指だけを使う、という前提にしようかね。「2本の指の力の合計力」と「それぞれの指の力」の時間的変化は、例えば図2みたいになります。
S:ふむふむ。確かに、力が一定の場合しかUCMが使えないようだと応用が利かなさそうだ、というのはなんとなくわかりました。
でもちょっと混乱してるんですが、目標値が一定だったから、分散の計算に意味があったと思うんですよ。トータルの音量の分散が小さければ、それだけ上手に制御ができている、って解釈できましたよね。パフォーマンス結果が全て目標値とぴったりだった時は分散ゼロ、というわけでしたよね。でも目標値が変動しちゃったら、分散の大小で制御の良し悪しが言えなくなっちゃいませんか?
Y:全くそのとおり。これまでの例だと;
「パフォーマンス結果の分散がゼロって、すごいね。ずっとぴったり一定値を保てるなんて!」
という世界だったけど、今度は;
「パフォーマンス結果の分散がゼロって、全然ダメじゃん。目標値が変動しているのに、なに一定値を保ってんの!」
という世界。
S:そんな世界じゃ、UCMなんて使えないじゃないですか。なんだかなぁ、これまでやっかいな数式とかMathJax使ってシコシコ作ってきたのに...。
Y:いやいや、大丈夫。目標値が変動する一般的なケースでも、ちゃんとUCM使えますから。数式ももっと使うから、MathJaxの出番はまだまだありますよ。これまでは、「時間的な変動の分散」を使って計算してきたんだけど、ここからは、「試行間の変動の分散」という考え方を導入します。
S:おっと、ここまできて、さらに新しい概念ですか。
Y:最終回にラスボス登場、というがお決まりのパターンなのです。
じゃあまず、目標値がランプ課題(図1左)の場合を例にとろうか。指2本の力の合計がこうなるように力を出してもらうと図2みたいになる。これを何試行か繰り返した場合の結果の例をグラフにしてみて。
それから、今からの例では、学習の要素は入れないことにします。本番の前に何度か練習してもらって、一応パフォーマンスが安定している、という状況を考えます。
それでも毎回ぴったり同じにはらないから、合計力の時間変化(パフォーマンス結果)も毎回少しずつ違うし、2本それぞれの指の力パタンも毎回違うように意識して図を作ってみるかな。
Y:実際には、どの時刻tでも「合計力 = 指1の力 + 指2に力」になってないといけないけど、これは模式図なので、そこは厳密じゃないけど、勘弁して。
S:図の意味はわかりますけど、「試行間の分散」というのがまだイマひとつ見えてこないですね。
Y:ここから先には、新しい切り口が必要なんです。
S:新しい切り口?
Y:図3のそれぞれを、図4みたいに重ねるように置くと。実際は何十試行分もの「厚さ」(図では奥行き)になる。そうしておいて、試行間を貫くような赤枠の方向に包丁でズバっと切って、その切り口を見てみる。何が見える?
S:ん?
Y:今までは、「横軸が時間、縦軸が音量」のグラフだったけど、今度は?
S:えーと、切り口のところは、「横軸が...試行番号、縦軸は...これまでどおり音量」のグラフ、ですかね。
Y:そう、「試行番号と音量」のグラフになるよね。じゃあ、そのグラフを作ってみてくれる?
S:こんな感じですかね。
Y:そういうこと。これって、横軸が試行回数に変わってだけで、あと基本的なところはこれまでの流れと同じ。この図から、横軸f1、縦軸f2の位相面グラフを作れるよね。
S:そしたら、こうゆうことですね。
S:これは前(その5:協調性をグラフで見てみよう!(その2:位相面グラフ))やったのと同じですね。
Y:なので、この「切り口」に関しては、今までのUCM解析の計算と同じことができるわけ。つまり、この「切り口」に対応する「時刻」におけるΔVが求まる。
S:ということは、それぞれの時刻ごとにΔVが計算できる、つまりΔVの時間的変化がみれるというわけですね。
Y:まさにその通り。仮にデータのサンプリングが1/1000秒毎なら、1/1000秒ごとのΔVの変化を求めることもできるといこと。
S:それは面白いですね。ΔVは時間的に変わるもんなんですか。
Y:課題にもよるけど、変わりますよ。その変化をどう解釈するかは、なかなか難しいところがあるけどね。
というけで、概略はこんな感じですかね。
S:はい。...で?
Y:何?
S:いや、これまでの流れだと、ここから「じゃ、数式で確かめてみようか」って話しになるのかと。
Y:あれ、気がついた?
S:この話しも長くやってますからね、だいたいパタンがわかって来ましたよ。数式書くためにMathJaxも覚えたんですから。冒頭でも数式を使うって言ってましたよね。まさか、面倒くさくなって来たんじゃ。
Y:なっ、何を言い出すんだ君は。そんなことあるわけ無いじゃなかるべし。
S:日本語が変になってますよ。
Y:えっと、まじめに言うと、図6のところでその5と同じになったので、概要としてはここまででも良いかな、と思ってるんですよ。なので、概要だけを知りたいのであれば一応ここまでで読むのをやめてもOK、と。ただやっぱり自分でUCMを使いたいというときは計算をきちんとできないといけないので、そこはオマケとして次回にまわそうかね。
S:でも、今回が最終回だったのでは
Y:しっ、黙ってればだれも気づかないから
S:またそれかい!