UCM解析

その14:最終回なので遠慮無く数式を使って確認 

作成日 2015.6.24

S銀研究員:さて、いよいよ数式を確認して最後ですね。

Y田研究員:長い道のりでした。それじゃ、まずは復習として、基本的なΔVの計算式を書いてみよう。「UCMの分散VUCM」と「ORTの分散VORT」との差を、「全体(合計音量など)の分散Vtot」で割って正規化したものがΔV、という話しだったね。

\[ \begin{align}  { \Delta V =(V_{UCM} - V_{ORT})/ V_{tot} } \label{eq:deltaV} \end{align} \]

 このΔVについてもそうだし、VUCMもVORTもVtotもそうなんだけど、これが何の分散かと言うことを意識する必要ある。

S: 何の分散って、いま説明してもらったとおりですよね。Vtotは全体の分散だし、VUCMはUCM方向の分散ってことじゃないんですか?

Y:それは確かにそうなんだけどね、「何の分散」というのは、厳密にいうなら「何まわりの分散」かってこと。

S: 何まわり?

Y:そう。これまでは、音量の「時間的な変動」を考えてきたので、分散も「時間まわり」の分散を扱ってきたことになるわけ。それに対して、今の例では何試行か実施した結果が得られているわけで、「試行まわり」の分散ってのが出てくる。

S: 時間まわりの分散と、試行まわりの分散、ですか。なんか聞き慣れないですね。

Y:英語だと、variance across time、variance across trialとなるのかな。

S: across timeなら、時間を横切る分散、時間領域に渡る分散、みたいないニュアンスですかね。

Y:そういう感じ。とにかく、いままでは「時間まわり」の分散を扱ってきたけど、このケースでは「試行まわり」の分散を扱うことになります。
 この2つを混同すると良くないので、ちょっと記号を決めよう。ええと、timeもtrialも頭文字はtでカブっちゃうから、時間はtにして、試行の方はsetのsにでもしておきますか。
 そうすると、これまでメンバー1の音量m1を、1つの変数i(時間)のパラメータとしてm1(i)と書いていたところを、変数tとsの両方をパラメータ明示してm1(t, s)ってな感じの記法にしましょう。

S: そうしたら、他の変数も、tとsの変数ということになりますか。

Y:そうなるものとならないものがあるから、じっくり見て行こう。
 まず、2人のメンバー合計音量S(注:このSはsetではなくsum)は、「s試行目に時刻tの音量」というように2つのパラメータを規定する必要があるからこうなる。
\[ \begin{align}  { S(t,s) = m_{1}(t,s) + m_{2}(t,s) } \label{eq:s} \end{align} \]

S:(← 注:このSはsumではなくS銀 ^^;)これは、tとsの変数ですね。

Y:そう。次は各メンバーの分散を考えようか。先に言っておくと、分散はtとsの変数ではなくて、tのみの変数か、sのみの変数になる。分散の計算に平均値が必要なるけど、今度は「時間回り」の平均値と「試行回り」の平均値が出てくる。時間の方はこれまでと同じで合計n回、試行の方は合計r回とする。s試行目のm1の時間平均をE(m1(.,s))、各試行の時刻tのときのm1の試行間平均をE(m1(t,.))と書くことにしよう。

S: ちょっと待って下さいよ、えーと、これまでメンバー1の平均音量はE(m1)と書いてましたね。これは新しい記号だとE(m1(.,s)), E(m1((t,.))どっちになるのかな...

Y:それは時間まわりの平均なので、E(m1(.,s))。

S: 時間回りなのに、パラメータtが出てこないで、sが残るんですね...

Y:ちょっとややこしいかもしれないけど、時間平均といっても、今までと違って「何試行目の時間平均か」が問題になる。試行毎に音量の時間平均が異なるからね。E(m1(.,s))は、「メンバー1の音量m1」の「試行s」についての時間平均、ということ。
 そして、これから使うのは、時間平均ではなくて、ある時刻tのときの試行間の平均E(m1(t,.))の方。これを使って、試行回りの分散を求めてみよう。時刻tの時点で、試行間にどれだけバラツキがあるか、どのバラツキ方からメンバー間の協調性をどう評価できるか、ということね。
 これまでと同じで、メンバー2名の音量をベクトルPと書こうか。時刻tにおけるs試行目の音量ベクトルP(t,s)の要素はどんなふうに書ける?

S: 結局、「その9」でやった「時間まわり」のことを、「試行回り」に置き換えてゆくってことですよね。そうすれば、こういうことですよね。
\[ \begin{align}  { \boldsymbol{P}(t, s) = (m_{1}(t,s), m_{2}(t,s)) } \label{eq:p} \end{align} \]

Y:そういうこと。では、この時刻tにおける試行間の平均のベクトルP(t,.)は? 

S: 試行回りだと記号はPm(t,.)になるんですね。これは、さっきやった時間まわりの平均E(m1(.,s))から類推すれば、こうですよね。 \[ \begin{align}  {\overline{\boldsymbol{P}}(t, .) = (E(m_{1}(t,.)), E(m_{2}(t,.))) } \label{eq:pm} \end{align} \]

Y: そのとおり。次は、時刻tにおける試行sのときのバラツキのベクトルDを求める。これはD(t,s)と書きたいところだけど、そうすると「試行sにおける、時刻tのバラツキ」と区別がつかないので、苦肉の策でDt(s)と書きますか。

S: 了解。「その9」の流れそのままですね。記号にだけ気をつけてっと、 \[ \begin{align}  {\boldsymbol{D}^t(s) = \boldsymbol{P}(t, s) - \overline{\boldsymbol{P}}(t, .) } \label{eq:d} \end{align} \]

Y: 続いて、これをUCM成分とORT成分に分けるところがミソ。

S: そうでしたね。「その9」によれば、UCM方向の単位ベクトル ZUCM とORT方向の単位ベクトル ZORTをもってきて、そいつらとの内積をとれば良いってことなんですが、...この場合のZUCMZORTはどうなるんでしょ?

Y: どうなるって? おんなじですよ。

S:同じですか? 時間回りでも、試行まわりでも?

Y: 同じ、同じ。あとで「その8」「その11」をじっくり見直してもらえば分かるとおもうけど、要は「二人の音量の合計が、総音量」という関係、つまり、式\eqref{eq:s}の関係、は時間・試行に関わらず同じ。そうなると、「結果に影響しないバラツキの方向」(m1が増えたとき、m2が減る)と「結果にモロ影響するバラツキの方向」(m1が増えたとき、m2も増える)も、これまでと何ら変わるところはない。というわけで、「その8」「その11」で求めたZUCMZORTがそのまんま使える。前回(「その12」)のときはZではなくてeを使ったね。こっちの方が単位ベクトルっぽいからこちらを使おうか。

S:そういうことなら、UCM方向の変動をDUCM、ORT方向の変動をDUCMと書けば、こうですね。 \[ \begin{align}  {D^t_{UCM}(s) = \boldsymbol{D}^t(s) \cdot \boldsymbol{e}_{UCM} } \label{eq:dcum}\\  {D^t_{ORT}(s) = \boldsymbol{D}^t(s) \cdot \boldsymbol{e}_{ORT} } \label{eq:dort} \end{align} \]

Y: そう。DUCMやDUCMはベクトルではなくて、スカラね。さらに、全体の変動の大きさが必要だけど、これはDの大きさそのもの。詳しい話は「その6」でやったね。あの回ではLという記号を使ってたけど、ここではそれをDtotと書くことにすれば、結局、 \[ \begin{align}  {D^t_{tot}(s) = |\boldsymbol{D}^t(s)| =\sqrt{\boldsymbol{D}^t(s) \cdot \boldsymbol{D}^t(s)}} \label{eq:dtot}\\ \end{align} \] ここまで準備できれば、あとはその二乗平均をもとめれば、VUCM、VORT、Vtotになる。

S:つまりこうですね。

\[ \begin{align}  {V^t_{UCM} = \frac{1}{m} \sum_{s=1}^mD^t_{UCM}(s)^2} \label{eq:vtucm}\\  {V^t_{ORT} = \frac{1}{m} \sum_{s=1}^mD^t_{ORT}(s)^2 } \label{eq:vtort}\\  {V^t_{tot} = \frac{1}{m} \sum_{s=1}^mD^t_{tot}(s)^2} \label{eq:vttot} \end{align} \]

Y: はい。これで式\eqref{eq:deltaV}に放り込めばそのままΔVのできあがり。ここでは、これが時刻の関数になっていること明示してΔV(t)と書けば、 \[ \begin{align}  { \Delta V(t) =(V^t_{UCM} - V^t_{ORT})/ V^t_{tot} } \label{eq:deltaVt} \end{align} \] となって、一丁上がり。

S:おお、これが目標値が変動する場合のΔVですね。

Y:確かに、目標値が変動する場合、ってことで説明をはじめたけど、実際には目標値は変動しても良いし、しない場合でもよい。より本質的なのは、「試行間の変動についての時系列のΔV」が求まる、ってことかな。とにかく、ここまでで一応終了!

S:お疲れ様でした。はじめに思ってたよりもだいぶ長い話になりましたね。その間に、僕、2回も転職しましたから。

Y:ん?



その13:目標値が変動するときはどうなるの? | 生体工学技術へ |  あとがき